七円玉の読書記録

Researching on Nichiren, the Buddhist teacher in medieval Japan. Twitter @taki_s555

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑭

前回の終わりにある「天台宗より外の諸宗は本尊にまどえり」について、私は「……諸宗は教主にまどえり」と換言できるのではないかと仮説を提示したが、今回の範囲でも「教主」と「本尊」が同義に扱われていると見られる。その考察は後日に期す。書誌情報、凡…

デヴィッド・マクマハン「仏教の近代主義(仏教モダニズム)」の要約と議題の和訳

David L. McMahan “Buddhist Modernism”は、米国フランクリン・アンド・マーシャル大学教授のマクマハン氏が編纂した“Buddhism in the Modern World(近代世界における仏教)” Routledge, 2012の一章である。本論部分は『ブッダの変貌――交錯する近代仏教――(…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑬

翻刻を通して再読してみると、教主(本尊)論として吟味したい一節の多い箇所である。「或は云く『法華寿量品の仏は無明の辺域、大日経の仏は明の分位』等云云」(137頁)と空海が主張したとする文は、「撰時抄」「報恩抄」等における日蓮による空海批判で頻…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑫=開目抄下

今回から下巻となる。便宜上、130頁まで翻刻する。上下巻それぞれの冒頭と終わりの「開目抄上巻」「開目抄下巻」は棒線で削除されており、日蓮自身が上下に分巻した筆跡がなかったことになるから、身延山所蔵の真蹟は全部通しで一巻であったと解されている。…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑪

十頁ずつ連載しているが、今回は区切りがよい開目抄上巻終わりの113頁まで翻刻する。終盤、法華経方便品・略開三顕一から説き起こされた「具足」義のサンスクリット語・漢語による解釈については、少々注記したものの、課題が多いので時間をかけて調査し、後…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑩

「史的文字データベース連携検索システム」(https://mojiportal.nabunken.go.jp、以下、史的文字DBと略す)が公開された。これは奈良文化財研究所が中心となって運営するもので、国内外の複数機関が所蔵・管理する史的文字(木簡・紙面)の画像を横断的に検…

「開目抄」における法華経勧持品・不軽品の引用文の合成

「日蓮「開目抄」:日乾による対校本の翻刻⑧」の範囲で、日蓮(1222-82)は、自身の忍難と慈悲は天台・伝教に優れていると言っておきながら、すぐさま一転して、私は法華経の行者ではないのか?と疑問を呈した。翻刻⑨では、また一転して、法華経勧持品の文*1…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑨

小考を記して本範囲の解題とするが、稿を改めた。「「開目抄」における法華経勧持品・不軽品の引用文の合成」を参照されたい。 (81)カカタ〱疑ハシ而ニ法芲経ノ第五ノ巻勧持品ノ二十ノ偈ハ日蓮タニモ此ノ國ニ生スハホトヲト丗尊ハ大妄語ノ人八十万億那由他…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑧

日蓮自身の誓願が明かされる。また天台大師や伝教大師よりも自身の慈悲が優れているとまで宣言しておきながら、一転して天の加護がない、自分は法華経の行者ではないのか?と自問する。この落差、起伏、うねりに圧倒されるが、当時の「今日切る、あす切る」…

仏教における「時」の意味:メモ

時間としての縁起=因果、過去・現在・未来という三世、法華経における三千塵点劫、五百(千万億那由他阿僧祇)塵点劫=久遠という過去等、仏教で扱う「時」の例は枚挙に暇がない。その意味合いは色々と整理が必要ではあるが、下田正弘氏の次の指摘は大変興…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑦

日蓮による仏教史の叙述は、「開目抄」に限らず「撰時抄」「報恩抄」等、仮名交り文に頻出する。開目抄では今回63頁からの法相宗日本伝来の御代について、人王三十七代孝徳天皇か第四十五代聖武天皇か、諸本で異同があり少々注釈した。こうした叙述は翻刻④で…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑥

今回の範囲のハイライトは「本因本果の法門」であるが、妙楽湛然「行布を存するが故に」以下の引用(57頁以下)から、現代の日蓮文集を研究対象とすることの価値について少々言及した。始成正覚(52頁)については、大正蔵で華厳経の用例を調べた。注を参照…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑤

49頁の「賢王の世には道理かつべし。愚主の世に非道先をすべし。聖人の世に法華経の実義顕るべし。(愚人の世には正法の理隠る)」については、「立正安国論」と関連させて考察を加えた。注を参照されたい。 (41)暗夜ニ満月ノ東山ヨリ出カコトシ七寳ノ塔大…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻④

今回の範囲(31頁から40頁)周辺は、前回に続き、爾前経では二乗は永久に成仏できないことを経文を挙げながら語られているが、その様を日蓮は、「(釈尊が)御自身の弟子たちをとことん責めて死なせてしまおうとされたのではないかと思うほどである」(36頁…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻③

前回までの記事で異体字に改められていない箇所が数個あった。後で訂正するが、今回も登場したので、ここに三種を掲げる。〔追記 2020/11/07:①②ともに訂正完了。〕敎 =教。ただし教も併用される。失 異体字。koseki-017090巻 下部が巳の異体字。u5dfb-var-…

大乗経典と紙の書物:読書メモ

私は大乗経典の成立論や起源説に関心があり、断続的に関連する論考を読んできたが、ここに読書メモを保存しておきたい。数年前のものだが、法華経を日々読誦する信仰の上でも大きなインスピレーションを得られそうで、事あるごとに見返していきたい。 ○経典…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻②

続きに入る前に、「開目抄」の書誌情報を追加しておきたい。身延山にあった真蹟の本文は六十五紙、またそれとは別に表紙に「開目」の二字が書かれていたと伝えられている。すなわち、日乾「身延山久遠寺御霊宝記録」に「開目抄 六十五紙 此外表紙開目二字有…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻①

日蓮(1222-82)の「開目抄」は、佐渡流罪中の文永9(1272)年に執筆された代表作であり、日蓮が法華経の経文を自身の言動と照合しながら「法華経の行者」という造語をもって自己規定し、末法における教主ないし導師としての自身の境地を明かした最重要書の…

雑記:「立正安国論」真蹟翻刻ほか

9月も大して投稿ができなかったが、申し訳程度に記せば、以下のようになる。 ○日蓮「立正安国論」の真蹟翻刻について、今回は①、第七紙、仁王経引用中の「刀星」を中心に、ちまちま注記を加えた。*: 立正安国論広本も「刀」(第四紙5行目)。平成新修含む多…

雑記:「立正安国論」真蹟翻刻の注記追加について

以前、日蓮「立正安国論」の真蹟翻刻をしたが、調査をさらに進め、注記に反映した。今回は以下の作業を行った。 ○注記した漢字について、諸橋轍次『大漢和辞典』(大修館書店、修訂第二版、諸橋大漢和と略記)で調べ、追記した。漢字の通番、巻数-頁数(通巻…

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雑記:日蓮「開目抄」について

8月は読書や研究がはかどったものの、投稿は滞った。日蓮の「開目抄」について調べていた。 ○開目抄に引用された「欲知過去因、見其現在果」以下の経文については、日蓮は「心地観経に曰く」としているが、これは同経の現在の本にはなく、諸経要集等にある。…

「立正安国論」真蹟翻刻③終 第二十五紙~第三十六紙

(第二十五紙)又云如来昔為国王行菩薩*1時断絶爾所波羅門命又云殺有三謂下中上下者蟻子乃至一切畜生唯除菩薩示現生者以下殺因縁堕於地獄畜生餓鬼具受下苦何以故是諸畜生有微善根是故殺者具受罪報中殺者従凡夫人至阿那含是名為中以是業因堕於地獄畜生餓鬼具…

「立正安国論」真蹟翻刻②第十三紙~第二十四紙

(第十三紙)浄土宗学者先須知此旨設雖先学聖道門人若於浄土門有其志者須棄聖道帰於浄土又云善導和尚立正雑二行捨雑行帰正行之文第一読誦雑行者除上観経等往生浄土経已外於大小乗顕蜜*1諸経受持読誦悉名読誦雑行第三礼拝雑行者除上礼拝弥陀已外於一切諸仏菩…

「立正安国論」真蹟翻刻①第一紙~第十二紙

日蓮「立正安国論」の真蹟写真を翻刻した。この真蹟は文応元(1260)年に北条時頼に提出したのと同じテクストを日蓮自身が文永6(1269)年末に書写したものと考えられ(奥書参照)、現在は国宝として、門下の富木常忍を淵源とする中山法華経寺(千葉県市川市…

日蓮「立正安国論」広本略本異同③終

最終回は第八問答から終わりまでを収録する。凡例等は第一回を参照。 ⑧客の曰く、若し謗法の輩を断じ、若し仏禁の違を絶せんには、〔彼の〕経文の如く斬罪に行う可きか。若し然らば殺害相加わって罪業何んが為んや。則ち大集経に云く「頭を剃り袈裟を著せば…

日蓮「立正安国論」広本略本異同②

第二回は第四から第七問答までを収録する。凡例等は第一回を参照。略本の真蹟第二十四紙は現存せず、替わりに功徳院日通(1551-1608)が模写して継いでいるが、その箇所は青色で示した。 ④客猶憤りて曰く、明王は天地に因って化を成し、聖人は理非を察して世…

日蓮「立正安国論」広本略本異同①

日蓮の「立正安国論」(文応元年提出、中山法華経寺蔵、以下略本と記す)と広本(再治本、京都本圀寺蔵)との異同について調査した。広本は身延期に経文を大幅に添加し、また真言批判、謗法呵責を強めた文言を加えている。同本は真偽問題もあるが、仮に模写…

国立国会図書館ウェブ公開中の日蓮書簡集について

近代から出版された日蓮(1222-82)の書簡集は、国立国会図書館(NDL)で閲覧可能であり、中には版権切れからウェブ公開され、ダウンロードできるものがある。しかし入力された書誌情報が不正確なためか、見つけづらいものがある。ここではウェブ公開中のも…

疫病と日蓮④ 弥三郎殿御返事 補遺

以前、疫病と日蓮③ 弥三郎殿御返事 ノートを書いたが、さらに調べると書誌情報に補正が必要となったので、ここに当該箇所のみ整理しなおした。 建治3(1277)年8月4日、与弥三郎、弥三郎殿御返事(真蹟ナシ、京都本満寺本)、御書1449頁、定253番。(参考文…