七円玉の読書記録

Researching on Nichiren, the Buddhist teacher in medieval Japan. Twitter @taki_s555

開目抄

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑭

前回の終わりにある「天台宗より外の諸宗は本尊にまどえり」について、私は「……諸宗は教主にまどえり」と換言できるのではないかと仮説を提示したが、今回の範囲でも「教主」と「本尊」が同義に扱われていると見られる。その考察は後日に期す。書誌情報、凡…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑬

翻刻を通して再読してみると、教主(本尊)論として吟味したい一節の多い箇所である。「或は云く『法華寿量品の仏は無明の辺域、大日経の仏は明の分位』等云云」(137頁)と空海が主張したとする文は、「撰時抄」「報恩抄」等における日蓮による空海批判で頻…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑫=開目抄下

今回から下巻となる。便宜上、130頁まで翻刻する。上下巻それぞれの冒頭と終わりの「開目抄上巻」「開目抄下巻」は棒線で削除されており、日蓮自身が上下に分巻した筆跡がなかったことになるから、身延山所蔵の真蹟は全部通しで一巻であったと解されている。…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑪

十頁ずつ連載しているが、今回は区切りがよい開目抄上巻終わりの113頁まで翻刻する。終盤、法華経方便品・略開三顕一から説き起こされた「具足」義のサンスクリット語・漢語による解釈については、少々注記したものの、課題が多いので時間をかけて調査し、後…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑩

「史的文字データベース連携検索システム」(https://mojiportal.nabunken.go.jp、以下、史的文字DBと略す)が公開された。これは奈良文化財研究所が中心となって運営するもので、国内外の複数機関が所蔵・管理する史的文字(木簡・紙面)の画像を横断的に検…

「開目抄」における法華経勧持品・不軽品の引用文の合成

「日蓮「開目抄」:日乾による対校本の翻刻⑧」の範囲で、日蓮(1222-82)は、自身の忍難と慈悲は天台・伝教に優れていると言っておきながら、すぐさま一転して、私は法華経の行者ではないのか?と疑問を呈した。翻刻⑨では、また一転して、法華経勧持品の文*1…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑨

小考を記して本範囲の解題とするが、稿を改めた。「「開目抄」における法華経勧持品・不軽品の引用文の合成」を参照されたい。 (81)カカタ〱疑ハシ而ニ法芲経ノ第五ノ巻勧持品ノ二十ノ偈ハ日蓮タニモ此ノ國ニ生スハホトヲト丗尊ハ大妄語ノ人八十万億那由他…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑧

日蓮自身の誓願が明かされる。また天台大師や伝教大師よりも自身の慈悲が優れているとまで宣言しておきながら、一転して天の加護がない、自分は法華経の行者ではないのか?と自問する。この落差、起伏、うねりに圧倒されるが、当時の「今日切る、あす切る」…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑦

日蓮による仏教史の叙述は、「開目抄」に限らず「撰時抄」「報恩抄」等、仮名交り文に頻出する。開目抄では今回63頁からの法相宗日本伝来の御代について、人王三十七代孝徳天皇か第四十五代聖武天皇か、諸本で異同があり少々注釈した。こうした叙述は翻刻④で…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑥

今回の範囲のハイライトは「本因本果の法門」であるが、妙楽湛然「行布を存するが故に」以下の引用(57頁以下)から、現代の日蓮文集を研究対象とすることの価値について少々言及した。始成正覚(52頁)については、大正蔵で華厳経の用例を調べた。注を参照…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻⑤

49頁の「賢王の世には道理かつべし。愚主の世に非道先をすべし。聖人の世に法華経の実義顕るべし。(愚人の世には正法の理隠る)」については、「立正安国論」と関連させて考察を加えた。注を参照されたい。 (41)暗夜ニ満月ノ東山ヨリ出カコトシ七寳ノ塔大…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻④

今回の範囲(31頁から40頁)周辺は、前回に続き、爾前経では二乗は永久に成仏できないことを経文を挙げながら語られているが、その様を日蓮は、「(釈尊が)御自身の弟子たちをとことん責めて死なせてしまおうとされたのではないかと思うほどである」(36頁…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻③

前回までの記事で異体字に改められていない箇所が数個あった。後で訂正するが、今回も登場したので、ここに三種を掲げる。〔追記 2020/11/07:①②ともに訂正完了。〕敎 =教。ただし教も併用される。失 異体字。koseki-017090巻 下部が巳の異体字。u5dfb-var-…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻②

続きに入る前に、「開目抄」の書誌情報を追加しておきたい。身延山にあった真蹟の本文は六十五紙、またそれとは別に表紙に「開目」の二字が書かれていたと伝えられている。すなわち、日乾「身延山久遠寺御霊宝記録」に「開目抄 六十五紙 此外表紙開目二字有…

日蓮「開目抄」:日乾による真蹟対校本の翻刻①

日蓮(1222-82)の「開目抄」は、佐渡流罪中の文永9(1272)年に執筆された代表作であり、日蓮が法華経の経文を自身の言動と照合しながら「法華経の行者」という造語をもって自己規定し、末法における教主ないし導師としての自身の境地を明かした最重要書の…

雑記:日蓮「開目抄」について

8月は読書や研究がはかどったものの、投稿は滞った。日蓮の「開目抄」について調べていた。 ○開目抄に引用された「欲知過去因、見其現在果」以下の経文については、日蓮は「心地観経に曰く」としているが、これは同経の現在の本にはなく、諸経要集等にある。…