日蓮「開目抄」：日乾による真蹟対校本の翻刻③
前回までの記事で異体字に改められていない箇所が数個あった。後で訂正するが、今回も登場したので、ここに三種を掲げる。〔追記 2020/11/07：①②ともに訂正完了。〕
敎 ＝教。ただし教も併用される。
失 異体字。koseki-017090
巻 下部が巳の異体字。u5dfb-var-002
（21）
善无畏三蔵金剛*1智三蔵天台ノ一念三千ノ義ヲ
盗トテ*2自宗ノ肝心トシ其上ニ印ト真言トヲ加テ超
過ノ心ヲヲコス其子細ヲシラス学*3者等ハ天竺
ヨリ大日経ニ一念三千ノ法門アリケリトウチヲモウ芲
厳宗ハ澄観カ時芲厳経ノ心如工畫*4師ノ文ニ天
台ノ一念三千ノ法門ヲ偷入タリ人コレヲシラス日
本我朝ニハ芲厳等ノ六宗天台真言已𫝐ニワタリケリ
（22）
芲厳三論法相諍論水火ナリケリ𫝊敎大師
此國ニイテヽ*5六宗ノ邪見ヲヤフルノミナラス真言
宗カ天台法芲経ノ理ヲ盗取テ自宗ノ極トスル
事アラワレヲハンヌ𫝊敎大師宗々ノ人師ノ異執ヲステヽ*6専
経文ヲ𫝐トシテ責サせ給シカハ六宗ノ髙徳八人
十二人十四人三百餘人并*7弘法大師䓁せ
メヲトサレテ日本國一人モナク天台宗ニ帰伏シ南
（23）
都東寺日本一州ノ山寺皆叡*8山ノ末寺トナリヌ又
漢土諸宗ノ元祖ノ天台ニ帰伏シテ謗法ノ失ヲマヌカレ
タル事モアラワレヌ又其後ヤウヤク丗ヲトロヘ人ノ智ア
サクナルホトニ天台ノ深義ハ習ウシナイヌ他宗ノ執心ハ強
盛*9ニナルホトニヤウヤク六宗七宗ニ天台宗ヲトサレテ
ヨワリユクカノユヘニ結句ハ六宗七宗等ニモヲヨハスイウニ
カイナキ禅宗淨土宗ニヲトサレテ始ハ𣞀*10那ヤウヤクカノ
（24）＊191頁
邪宗ニウツル結句ハ天台宗ノ碩徳ト仰*11カルヽ人々ミナヲ
チユキテ彼ノ邪宗ヲタスクサルホトニ六宗八宗ノ田畠
㪽領ミナタヲサレ正法失ハテヌ天照太神正八
幡*12山王等諸守護*13ノ諸大善神モ法味ヲナメサル
カ國中ヲ去給カノ故ニ𢙣鬼便ヲ得テ国*14ステニ破レナント
ス此而予愚見ヲモテ前*15四十餘年ト後八年トノ
相違ヲカンカヘミルニ其相違多トイエトモ先丗間ノ
（25）
学者モユルシ我カ身ニモサモヤトウチヲホウル事ハ二乗
作佛久遠實成ナルヘシ法芲経ノ現文ヲ拜見スルニ
舎利弗*16芲光如來迦𫟒光明如來湏*17菩提*18名
相如來迦旃延閻浮那提金光如來目連多摩
羅跋旃𣞀香佛冨*19楼那法明如來阿難山海
恵自在通*20王佛羅睺羅𨂻*21七寳芲如來五百
七百普明如來学无学二千人寳相如來摩
（26）
訶波闍波提比丘尼橋曇弥*22比丘尼等ハ*23一切衆
生憙*24見如來具足千万光相如來等ナリ此等ノ人々ハ
法芲経ヲ拜見シタテマツルニハ尊キヤウナレトモ尒*25前*26ノ経
々ヲ披見ノ時ハケヲサムル事トモヲホシ其故ハ佛丗尊ハ
實語ノ人故ニ聖人大人ト号外典外道ノ中ノ䝨人
聖人天仙ナント申ハ實語ニツケタル名ナルヘシ此等ノ
人々ニ勝テ第一ナル故ニ丗尊ヲハ大人トハ申スソカシ此
（27）
大人唯以一大事囙縁故出現於丗トナノラせ
給テ未顕真實世尊法乆*27後要當説真實正
直*28捨方便等云云多寳佛證明ヲ加分身舌ヲ
出ス等ハ舎利弗カ未來ノ芲光如來迦𫟒カ光明
如來等ノ説ヲハ誰ノ人カ疑*29網*30ヲナスヘキ而トモ尒前ノ
諸経モ又佛陁ノ實語ナリ大方廣*31佛芲厳経云
如來智恵大藥*32王樹唯於二𠙚不䏻*33為作生
（28）
長利益㪽謂二乗堕於無為廣大深坑及壊
善根非器*34衆生溺*35大邪見貪愛之水等云云
此経文ノ心ハ雪山ニ大樹アリ无尽*36根トナツク此ヲ大
藥王樹ト号閻浮提ノ諸木ノ中ノ大王ナリ此木高ハ
十六万八千由旬ナリ一閻浮提ノ一切草木ハ此木ノ
根サシ枝𫟒芲菓ノ次苐*37ニ随テ芲菓ナルナルヘシ
此ノ木ヲハ佛ノ々性ニ譬*38ヘタリ一切衆生ヲハ一切ノ草木ニ
（29）＊192頁
タトウ但此ノ大樹ハ火坑ト水輪*39ノ中ニ生長セス二乗ノ
心中ヲハ火坑ニタトエ一闡提人ノ心中ヲハ水輪ニタト
エタリ此ノ二類ハ永ク佛ニナルヘカラスト申経文ナリ大
集経云有二種人必死不活畢竟不䏻知㤙
報*40㤙ヲ*41一一者聲*42聞二者縁覚譬ハ如ク下有テレ*43人墜二堕せン深
坑ニ一是人不ルカレ䏻中自利利他ニ上聲聞縁覚亦復如レ是
堕テ二解脱ノ坑ニ一不䏻自利及以利他䓁云云外典三
（30）
千餘巻ノ㪽詮に*44二アリ㪽*45謂孝ト忠トナリ忠モ又孝ノ家
ヨリイテタリ孝ト申者高也天高トモ孝ヨリモ髙
カラス又孝者厚也地アツケレトモ孝ヨリハ厚
カラス聖䝨ノ二類ハ孝家ヨリイテタリ何況ヤ佛法ヲ
学せン人知㤙報㤙ナカルヘシヤ佛弟子ハ必四㤙ヲ
シツテ知㤙報㤙ホウスヘシ其上舎利弗迦𫟒等ノ
二乗ハ二百五十戒三千威儀持整*46シテ味静*47■
*2:第一回の注で「トツテ」の「ツ」が抜けているかもしれないと指摘したが、ここで明確に促音はないことが分かった。
*4:＝画
*5:一応一文字分ではないが文字の間に点があり「ヽ」と見て「いでて」と解した。
*6:同前。
*7:＝並
*10:＝檀
*11:旁が印であるが、『異体字解読字典』（山田勝美監修、「難字大鑑」編集委員会編、柏書房）、『毛筆版くずし字解読辞典』（児玉幸多編、高橋蒼石著、東京堂出版）にもないので、これで進める。
*14:ママ
*15:𫝐か区別がつきかねる。
*16:以下、授記の仏名の直前に助詞「ハ」があるものの斜線があるか判読し難いが、削除と見なした。
*17:＝須
*18:草書体。u63d0-var-001
*19:＝富
*21:＝蹈
*22:○の右側に「橋曇弥」。○の直下の「耶輸多羅」を削除。橋曇弥は摩訶波闍波提の別名であり日乾本では同人物の繰り返しとなるため、経文通り、次下にある二つの授記の仏名に合わせて、遺文集では「耶輸多羅」に校訂＝元の写本のままのものが多い。日乾が真蹟に合わせたのなら真蹟が誤記あるいは推敲不足だったということになるが、「○○御本」と処理しなかったことに疑問が残る。
*23:ここは明確に「ハ」がある。
*24:吉の右脇に点があるがこれで進める。
*25:＝爾
*26:𫝐か区別がつきかねる。
*27:＝久
*28:異体字。koseki-000920=extf-00039
*29:異体字。偏が止＋天。u2ff0-u2ff1-u6b62-u5929-u2ff1-u9fb4-u758b
*30:冂部の中が又の異体字。グリフウィキにはないが異体字解読字典にはある。
*31:＝広
*32:＝薬
*33:＝能
*34:＝器
*35:弓の中が口の異体字。cbeta-09795。異体字解読字典にはない。
*36:盡と区別しにくいが別の異体字。zihai-130209
*37:＝第
*39:異体字。冊部が丙。グリフウィキ、異体字解読字典ともにない。
*40:異体字。n-gtwinppx_kanjishashin-009-054
*41:擦れて判読し難いが推測した。
*42:＝声
*43:擦れて判読し難いが推測した。
*44:判読しづらいが尓を崩した仮名に見える。
*45:○の右側に㪽
*46:異体字。束＋力＋心。twedu-a01740-008。ここは日乾の校訂箇所であるが、元の写本で「惣」と誤写されていたことが分かる。書写の容易ならざる様が窺えるが、仮に元の写本が校正されておらず、初校がこの日乾によるものであるならば、誤記があるのは当然ともいえる。
