七円玉の読書記録

Researching on Nichiren, the Buddhist teacher in medieval Japan. Twitter @taki_s555

日蓮書簡における「折伏」の用法

日蓮の法華経弘通の方法と法華経の教えの解釈に「折伏」という語がある。特に前者は日蓮系教団のみならず日蓮のイメージとして広く人口に膾炙してきた。これについて論ずるのは、あまりに膨大な先行研究を前に鵜の真似をする烏となる。 今ここで確認したいの…

Jacqueline I. STONE, “The Atsuhara Affair”を読む

Jacqueline I. STONE, “The Atsuhara Affair: The Lotus Sutra, Persecution, and Religious Identity in the Early Nichiren Tradition”, Japanese Journal of Religious Studies, vol. 41/1, pp.153-189, 2014 本稿は、日蓮(1222-82)の最晩年に富士地方…

「抄」と「鈔」について――日蓮書簡の題名覚書

日蓮の書簡・著作の題名には「○○抄」と名づけられたものが多い。これは「撰時抄」等、日蓮自身が真蹟で付けた場合と、「如説修行抄」や「兄弟抄」など写本によるか後世に読み習わされてきた場合とがあり、後者が圧倒的に多い。この「抄」という字について素…

疫病と日蓮③ 弥三郎殿御返事 ノート

建治3(1277)年8月4日、与弥三郎、弥三郎殿御返事(真蹟ナシ、京都本満寺本)、御書1449頁、定253番。(参考文献の略記の詳細は末尾に記載) 本文抜粋①されば今の日本国の諸僧等は、提婆達多・瞿伽梨尊者にも過ぎたる大悪人なり。又、在家の人々は此等を貴…

疫病と日蓮② 書簡における疫病の記述(改)

前々回に書いたように、日蓮の書簡を検索し、疫病に言及した箇所を精査しているが、相当な漏れがあったので、ここに訂正を含め改めて示したい。他にもあれば御教示いただきたく存じます。 疫病やくびやう大疫病大疫大えき疫癘疫れいえきれい章厲疾疫病疫疫死…

日蓮書簡における疫病の記述

新型コロナウイルス感染拡大を受けて、引き続き、鎌倉時代の仏教者・日蓮(1222-82)が建治3(1277)年、弘安元(1278)年に猛威を振るった疫病にどのような対応を示したかを調査している。 とりあえず日蓮の書簡を検索し、疫病に言及した箇所を精査している…

中尾堯『読み解く『立正安国論』』(臨川書店)など

コツコツ、日蓮遺文の真蹟写真を読んでいくことにした。「立正安国論」。現存するものは文永6〔1269〕年12月8日付自筆写本、ほぼ完存で第24紙のみ欠、慶長6〔1601〕年11月6日に法華経寺第14世住持・功徳院日通〔1551-1608〕が身延山を訪れ別の真蹟〔現存はし…

北御門二郎『ある徴兵拒否者の歩み』(みすず書房)

トルストイ翻訳者の北御門二郎(きたみかど・じろう、1913-2004)といえば、ちくま文庫に収められたトルストイ『文読む月日』全3巻(2003-2004年)の訳者として知る人ぞ知るものと思われますが、もっと注目されてもよいのではと思います。私もこの『文読む月…

上原專祿『クレタの壺』(評論社):文献学的研究と信仰

以前書いた上原専禄『生者・死者――日蓮認識への発想と視点』(未来社)に感化された私は、今度は彼の『クレタの壺 世界史像形成への試読』(評論社、1975年初版)を再読してみました。読んだのは、私が信奉している法華経と日蓮に関するところを中心にですが…

過去記事の更新

過去記事については、内容を書き足したり、様式を整えたりして、ちびちびと更新しています。■

船山徹『仏教の聖者 史実と願望の記録』(臨川書店):覚っていいの?

船山徹『仏教の聖者 史実と願望の記録』(臨川書店、2019年)を読了。 仏教において「私は覚った」と周りに触れ回る人はいないだろう。仏弟子がそう言えば、「おいおいなに言っちゃってるんだ、お前は増上慢(覚っていないのに覚っていると思いあがる)だ」…

下田正弘『パリニッバーナ 終わりからの始まり』(NHK出版):戒律は“健康的な生活習慣”

仏教聖典形成史を専門とする下田正弘氏の『パリニッバーナ 終わりからの始まり』(NHK出版、2007年初版)は一般人向けの100ページ超の短い書ですが、絶版でもあり、あまり知られていないようです。事あるごとに読み返したい一冊なので、メモしておきました。…

湯浅誠『なぜ「活動家」と名乗るのか』(ちくま文庫):自己責任論は無責任

自己責任論は「あんたの努力が足りないから、そういう結果になるんだ」という因果の語法ですが、なんとも冷たい響きをもった、現代社会の「呪い」の典型のようです。 この自己責任論を徹底的に批判してきた湯浅誠氏の著作は、何度も読み返したいと、今回メモ…

トルストイ『懺悔』のパンチ力

こんな読みやすかった? Twitterの140字いっぱい使ったまじめなツイートが読めるなら、そんなふうに感じるのではないでしょうか。 トルストイ『懺悔』(原久一郎訳、岩波文庫)読了。『戦争と平和』等で文豪の名声を確立したトルストイが、自死まで思いつめ…

上原專祿『死者・生者ー日蓮認識への発想と視点』(未来社)

歴史学者の上原専禄(1899-1975)という人物については、彼の著作『死者・生者ー日蓮認識への発想と視点』を読むまでは知りませんでした。門下には阿部謹也もいるのですね。 上原は1969年に自分の妻を病で亡くしますが、それは医師の誤診どころか不正や非道…

トルストイ『復活』(藤沼貴訳、岩波文庫):人間は川のようなもの

トルストイの『復活(上)』(藤沼貴訳、岩波文庫) を読了。引き続き下巻を読んでいます。 あらすじについては、以下のブログを参照させていただきました。レフ・トルストイ『復活』 | 文学どうでしょう まったく色褪せない古典ですが、興味深い一節を引用…

平岡聡『南無阿弥陀仏と南無妙法蓮華経』(新潮新書)

なんとも、おどろおどろしいタイトルのような。仏教学者の平岡聡氏による『南無阿弥陀仏と南無妙法蓮華経』(新潮新書)です。 人と法の関係について ライトな新書ですが、結構、鋭い引用があったので、メモします(同書75頁)。三枝充悳『ブッダとサンガ』…

高崎直道『『涅槃経』を読む』(岩波現代文庫):仏教の歴史は「師弟の歴史」

以前、高崎直道『『涅槃経』を読む』(岩波現代文庫)という本を読んで感銘を受けました。以下、雑感を記します。 仏教の歴史は「師弟の歴史」であることを痛感します。それは釈尊という師とそれ以外の弟子という意味の師弟であり、また各宗派の祖師とその弟…

ブログの開設

はじめまして。読書をしながら調べ物をこつこつやるのが好きです。ここでは、日記、読書、仏教について、メモや雑感をつけていきます。湧き上がるものを、その時その時に、本の引用とともに綴っていきます。 免責事項。ブログ内の文章はすべて個人的意見であ…